昭和63(1988)年に、16の臨床心理学に関連する心理学関係学会の協賛を得て発足することになった日本臨床心理士資格認定協会は、その2年後に文部科学省が認可する財団法人となり、平成25(2013)年4月1日付で内閣府認可の公益財団法人に移行し、今日の発展をみています。心の専門家である「臨床心理士」の資格認定制度は、日本では昭和28(1953)年に、すでに衆・参両議会で「カウンセラー設置に関する建議」として国会決議がなされ、比較的早い段階から話題となっていました。
しかし、「よろこび」や「かなしみ」などの心の動きは極めて個別的であり、客観的に対象化して把握することは難しいものです。また、それが故に、専門的な心の支援技法を明確に確立し、心を病む人々や心の健康を願う人々に適格に対処することも困難とされました。とくに健康や医療に関する日本文化の特徴は、「注射」や「レントゲン写真」にはお金を支払うものの、目に見えない部分には無関心。心の専門的支援が経済的に評価されることはほとんどない時代だったのです。その後、昭和40年代前半には、今日の日本心理臨床学会の前身であった日本臨床心理学会を中心として、臨床心理技術者としての資格認定制度の確立に向けた取り組みが進められました。しかし、上に述べたようなさまざまな背景的事情に加え、当時の全国的な大学紛争の他、精神医学に連動した臨床心理学の批判が高まり、この資格制度も夢に終わったのです。
沈潜の10年余を経て、昭和57(1982)年に、大学紛争の苦い経験を克服し、また心理臨床の技法に関する開発と精錬化の促進によって、それらの中心的役割を演ずることとなる「日本心理臨床学会」が発足することになりました。そして昭和63(1988)年には、他の関連学会にも働きかけ、積年の願いであった「日本臨床心理士資格認定協会」を発足させることができたのです。当時の学会理事長であった京都大学の河合隼雄教授が、認定協会設立準備委員長として、認定協会誕生にリーダーシップを発揮されました。
残念ながら河合隼雄先生は、平成19(2007)年7月19日に永眠されましたが、いま改めて先生の偉大な功績に対し、感謝の念を禁じ得ません。また、文部省(現:文部科学省)や厚生省(現:厚生労働省)等関係機関が、認定協会設立に向けて何かとご協力、ご支援をいただいたことも特記されます。とくに文部省からは、元事務次官の木田宏氏が認定協会初代会頭に就任されることになり、その後の発展に計り知れない寄与を果たされたことは言うまでもありません。
平成20(2008)年には、認定協会創立20周年を迎え、本当に多くの方々に祝福されながら盛大な記念式典を開催できました。平成25(2013)年度からは公益財団として新たにスタートしましたが、我々の取り組みは、むしろこれからが本番です。公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会は、今後も日本における臨床心理士の普及と地位の確立のために邁進してまいります。 (前専務理事:大塚義孝 記)